ゆかりちゃんと一緒に、散歩をした。
その散歩の途中で、「ケーキを食べよう!」ということになり、
僕たちの町で、1番良いホテルの中にあるカフェに寄った。
たまたま、散歩してたコースにそのホテルがあって、間もなくそのホテルに着く。
それが、お茶するキッカケになったのだ。
ショーケースのケーキを吟味してから、店内へ入った。
ホテルの中のカフェらしく、床は、赤と黒を基調とした厚めの絨毯だ。
ゆかりちゃんは、ケーキを絶賛した。
もともと、ゆかりちゃんは、このお店のケーキを高く評価していた。
でも、実は僕は、スイーツの良し悪しが良くは分からない。
みんな、それなりに美味しく感じるのだ。
僕は、コーヒーを絶賛した。
僕好みの、酸味の少ないコーヒーだった。
ゆかりちゃんは、珈琲には、可もなく不可もなくという感じだ。
ふたりとも、とても満足な休憩を味わっていた。
* * *
ゆかりちゃんが、
「わたしのline見た~?」
と、僕に言う。
僕は、「ん? 見てないよ」と、こたえた。
「ん~ん、もぉ~~、見てよぉ~」
「ああ、わかった」
lineを見ると、
『後ろ、お見合いだと思うよ』
と、あった。
僕は、ゆかりちゃんに顔を近づけて、小声で、
「そういわれても、振り返ったらおかしいし…」と言った。
すると、突然ゆかりちゃんが、
「凄い~! 窓がすごくキレイだと思わない~!?」
「表も裏も、あんなにキレイにするのって大変だと思うよ~!」
「外がクッキリ見える~!!」
と、やや大きめの声で言った。
おかげで、僕は、振り返りやすくなった。
振り返って見ると、確かに、お見合いらしい、若い男女がいる。
初々しい。・・・ん。
でも、どちらも、20代前半とかじゃないゾ…
いや、30代かもしれない…
育ちの良さそうな男性と、楽し気な女性…
それらも、ちゃんと確認できた。
いつまでも、ジロジロ見るわけにはいかないから、僕は姿勢を戻した。
そして、今見た2人の映像記憶を分析した。
女性の方が落ち着いていて、そして自然体。
男性は、明らかに緊張していて、カッチコチ。
そもそも、女性と会話した経験が【激少】の方のような、そんな雰囲気をかもし出している。
明らかに、女性の方が積極的だった。
男性がリラックスできるようにと、気を使っている。
このデートを、楽しいものにしようという『想い』も感じる。
その、女性の努力に、男性は甘えすぎているような、僕は、そんな妄想まで浮かべた。
そして、
・・・そしてだ。
「凄い~! 窓がすごくキレイだと思わない~!?」
「表も裏も、あんなにキレイにするのって大変だと思うよ~!」
「外がクッキリ見える~!!」
という、ゆかりちゃんのセリフも思い出す。
声のトーン。ボリューム。イントネーションや間。
あのセリフは、わざとらしかった。
棒読みだったし。ボリュームが、不自然に大きかった。
仮に、ゆかりちゃんが女優なら役者失格だ。
ダイコン役者だ。
それに脚本も、なっちゃいない。
なぜなら、大抵のお店の窓はキレイなハズだ。
驚くのは、逆に、汚いときじゃないか。
とにもかくにも、ゆかりちゃんは、
僕を【振り返りやすくするために】、脚本&主演の、ひとり芝居をしてくれたのだ。
そして、見事なダイコン役者っぷりで、僕を笑わしてくれた。
もうお分かりだろう。
ゆかりちゃんの天然ボケは、最高に面白いのだ。
「凄い~! 窓がすごくキレイだと思わない~!?」
ちょうどいい、棒読みっぷりだった・・・。
ああ、癒される~~~。
僕は、そんなゆかりちゃんが大好きなのだ。