エッセイ『妻に捧げる3650話』

妻を読者としたエッセイを書いています

言葉ではなく、カオと動きで名キャッチコピーをパクる

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◆バーボンウイスキー

時計の針は、もうすぐ21時を指そうとしている。

僕は、ダイニングテーブルで、フォアローゼス-ブラックを飲んでいる。
フォアローゼス-ブラックは、普通のフォアローゼスの、ワンランク上のバーボンウイスキーだ。
樽で寝かした年月が、ノーマルのそれより2~3年長い。

僕は、しみじみ思う。

「やっぱり、ブラックは旨い」と。

不思議なのは、もっと高級な『フォアローゼス-プラチナ』になると、僕には合わなかったことだ。
何度かプラチナを飲むも、結局僕は、このフォアローゼス-ブラックばかりを飲む。

20代から30代のころのことだ。

ロックで飲むのが好きだったが、53歳の今の僕には『水割り』の方が旨い。めっきり、酒が弱くなった。

 

昔、渋い中年のバーテンダーに、

「バーボンは、ストレートかロックで楽しむものだ」

と、教わった。

それが、ロックで飲むキッカケだった。

「えっ、甘い…」(23~24歳の若きじょーじ)

「そうだろぉ~」(渋い中年バーテンダー

って会話があったなぁ。

 

◆ゆかりちゃんはソファーで微睡む(まどろむ)

ゆかりちゃんは、リビングのソファーに座ってTVを観ている。

ちょっと前に、ゆかりちゃんが微睡み(まどろみ)はじめたことに、僕は気づいていた。

(バレたか?)と思ったのか、それとも(バレるまえに)と思ったのか、
ゆかりちゃんが、少し大きめの声で言った。

「眠いの~。・・・寝ても寝ても、それでも眠いの、どうしてなんだろ~?」

僕は、あえてその問いには答えずに、「お風呂、先に入ったら?」と、提案した。

「うん、そうだね」
「・・・ん? 」
「スルーした? 」
「わたし今、何って言った?」

「ああ、『眠い~』って」
『なんでだろう?』って言ってた~」
「かれこれ、一緒に暮らすようになって丸5年すぎたけど~」
「さっきのセリフは、もう何十回って聞いているよ~」
「もう、日常~」

「きゃはははは~!」

ゆかりちゃんは、弾けるように笑った。
こういうところが、ゆかりちゃんのカワイイところなのだ。

「春のはじめは『花粉症の時期は眠い』と言って」
「春の後半は『春眠、暁を覚えず』って言って」
「夏は『夏バテだから』
「秋は『秋だから』とか」
「冬は『最近寒いから』と」
「年中、『眠い』って言ってるよ~」

「あはははは~~~!」

「夜の9時ごろは1時間くらいの仮眠、というのも、もうルーティンやん」

 

◆ゆかりちゃん、名キャッチコピーをパクる

「あははは・・・」
「ん⁉」
「・・・はっ ‼」

ゆかりちゃんは言葉ではなく、カオで、「そうだ!」と語った。

ゆかりちゃん自身は自覚ないのだろうが、ゆかりちゃんのカオ芸は、お笑い芸人の域に達している。

突然立ち上がり動き出す。

ソファーに置いてあるクッションを、2つ重ねる。
ソファーの端にセットする。
そして「ポンポン」と、2度、叩く。

どう考えても、マクラにする気満々の行為。

そして、案の定、横になったのだ。

ゆかりちゃんは、(そうだ 仮眠、しよう)と思いついたのだ。

 
その瞬間、僕には、JR東海のTVコマーシャルが浮かんだ。
あの名キャッチコピー、そうだ 京都、行こうが、見事に重なった。

ゆかりちゃんは、ひと言も発していない。

ひと言も発することなく、そのカオと動きとで、名キャッチコピーをパクったのだ。「そうだ 仮眠、しよう」

僕は、フォアローゼス-ブラックを、危うく吹き出しそうになった。


僕は、そんなゆかりちゃんが大好きなのだ。