エッセイ『妻に捧げる3650話』

妻を読者としたエッセイを書いています

脚本、ゆかりちゃん 主演、ゆかりちゃん

f:id:nasegeorge:20210402194611j:plain

 

ゆかりちゃんと一緒に、散歩をした。

その散歩の途中で、「ケーキを食べよう!」ということになり、
僕たちの町で、1番良いホテルの中にあるカフェに寄った。

たまたま、散歩してたコースにそのホテルがあって、間もなくそのホテルに着く。
それが、お茶するキッカケになったのだ。


ショーケースのケーキを吟味してから、店内へ入った。
ホテルの中のカフェらしく、床は、赤と黒を基調とした厚めの絨毯だ。


ゆかりちゃんは、ケーキを絶賛した。
もともと、ゆかりちゃんは、このお店のケーキを高く評価していた。

でも、実は僕は、スイーツの良し悪しが良くは分からない。
みんな、それなりに美味しく感じるのだ。

僕は、コーヒーを絶賛した。
僕好みの、酸味の少ないコーヒーだった。

ゆかりちゃんは、珈琲には、可もなく不可もなくという感じだ。

ふたりとも、とても満足な休憩を味わっていた。


* * *

ゆかりちゃんが、

「わたしのline見た~?」

と、僕に言う。

僕は、「ん? 見てないよ」と、こたえた。

「ん~ん、もぉ~~、見てよぉ~」

「ああ、わかった」

lineを見ると、

『後ろ、お見合いだと思うよ』

と、あった。

僕は、ゆかりちゃんに顔を近づけて、小声で、
「そういわれても、振り返ったらおかしいし…」と言った。


すると、突然ゆかりちゃんが、

「凄い~! 窓がすごくキレイだと思わない~!?」

「表も裏も、あんなにキレイにするのって大変だと思うよ~!」

「外がクッキリ見える~!!」

と、やや大きめの声で言った。

おかげで、僕は、振り返りやすくなった。

振り返って見ると、確かに、お見合いらしい、若い男女がいる。

初々しい。・・・ん。

でも、どちらも、20代前半とかじゃないゾ…
いや、30代かもしれない…
育ちの良さそうな男性と、楽し気な女性…

それらも、ちゃんと確認できた。

いつまでも、ジロジロ見るわけにはいかないから、僕は姿勢を戻した。

そして、今見た2人の映像記憶を分析した。

女性の方が落ち着いていて、そして自然体。
男性は、明らかに緊張していて、カッチコチ。
そもそも、女性と会話した経験が【激少】の方のような、そんな雰囲気をかもし出している。

明らかに、女性の方が積極的だった。
男性がリラックスできるようにと、気を使っている。
このデートを、楽しいものにしようという『想い』も感じる。

その、女性の努力に、男性は甘えすぎているような、僕は、そんな妄想まで浮かべた。


そして、

・・・そしてだ。

「凄い~! 窓がすごくキレイだと思わない~!?」
「表も裏も、あんなにキレイにするのって大変だと思うよ~!」
「外がクッキリ見える~!!」

という、ゆかりちゃんのセリフも思い出す。

声のトーン。ボリューム。イントネーションや間。

あのセリフは、わざとらしかった。
棒読みだったし。ボリュームが、不自然に大きかった。

仮に、ゆかりちゃんが女優なら役者失格だ。
ダイコン役者だ。

それに脚本も、なっちゃいない。

なぜなら、大抵のお店の窓はキレイなハズだ。
驚くのは、逆に、汚いときじゃないか。

とにもかくにも、ゆかりちゃんは、
僕を【振り返りやすくするために】、脚本&主演の、ひとり芝居をしてくれたのだ。

そして、見事なダイコン役者っぷりで、僕を笑わしてくれた。


もうお分かりだろう。

ゆかりちゃんの天然ボケは、最高に面白いのだ。

「凄い~! 窓がすごくキレイだと思わない~!?」

ちょうどいい、棒読みっぷりだった・・・。

ああ、癒される~~~。


僕は、そんなゆかりちゃんが大好きなのだ。